なぜ経営者はトライアスロンにハマるのか? 科学が明かす6つの理由と経営力向上の秘密
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「趣味はトライアスロンです」——企業のトップや成功したビジネスパーソンのインタビューで、こんな言葉を目にしたことはありませんか? 実は、経営者の間でトライアスロンは単なる趣味を超えた、ビジネスパフォーマンスを高める重要なツールとして注目されています。
この記事では、なぜこれほど多くの経営者がトライアスロンに魅了されるのか、その科学的な理由と経営への影響を徹底解説します。
目次
- データで見る: 経営者の8%がトライアスロンを選ぶ理由
- トライアスロンが経営者に選ばれる6つの科学的理由
- 実際にトライアスロンに挑戦する経営者たち
- トライアスロンと経営の5つの共通点
- 経営者がトライアスロンを始めるには?
- まとめ: トライアスロンで得られる経営者としての成長
データで見る: 経営者の8%がトライアスロンを選ぶ理由
2012年に日経新聞が報じたデータによると、トライアスロン競技者の約8%が企業経営者です。 また、2013年の横浜大会では、参加者の12.6%が経営者・管理職という調査結果も出ています。
日本の人口に占める経営者の割合が約2%であることを考えると、この数字は驚異的です。つまり、トライアスロンをする人の中には、一般人口の4〜6倍もの割合で経営者が含まれているのです。
トライアスロンとは?
トライアスロンは、スイム(水泳)、バイク(自転車)、ラン(マラソン)の3種目を連続して行う耐久競技です。代表的な距離は以下の通り:
- オリンピック・ディスタンス: スイム1.5km、バイク40km、ラン10km(合計51.5km)
- アイアンマン: スイム3.8km、バイク180km、ラン42.2km(合計226km)
なぜこれほど過酷な競技に、多忙を極める経営者たちが挑戦するのでしょうか?
トライアスロンが経営者に選ばれる6つの科学的理由
1. 戦略的思考力が鍛えられる
トライアスロンは、見た目以上に戦略性の高い競技です。
3種目それぞれで求められる筋力や体力配分が異なるため、自分の強みと弱みを正確に把握し、限られたエネルギーをどう配分するかという戦略が勝敗を分けます。
レバレッジコンサルティングの本田直之氏やケンコーコムの後藤玄利氏は、「高い戦略性が求められること」がトライアスロンの面白さだと語っています。
経営との共通点:
- 自社の強みと弱みの分析
- 限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)の最適配分
- 市場環境に応じた柔軟な戦略変更
泳ぎが苦手ならスイムでは体力を温存し、得意なバイクで勝負をかける——このような戦略的思考は、まさに経営そのものです。
2. 実行機能(Executive Function)が飛躍的に向上する
科学的に最も注目すべきは、有酸素運動が脳の「実行機能」を高めることです。
実行機能とは、目標達成に必要な以下の認知能力を指します:
- 意思決定
- 問題解決
- 計画立案
- 注意制御
- ワーキングメモリ(作業記憶)
科学的根拠
2018年の研究では、持久力運動(エンデュランス運動)が実行機能と深く関連していることが示されています。特に、30分程度の中強度の有酸素運動は、前頭前野(脳の実行機能を司る領域)を活性化させ、意思決定能力を向上させることがわかっています。
さらに、2012年の研究では、定期的な有酸素運動を行う人は、以下の能力が向上することが確認されています:
- タスクの切り替え(task switching)
- 選択的注意(selective attention)
- 反応抑制(inhibitory control)
- ワーキングメモリ容量
経営者にとっての意味:
トライアスロンのトレーニングを継続することで、日々の経営判断がより鋭く、スピーディーになります。複雑な情報を処理し、優先順位をつけ、最適な決断を下す——まさに経営者に求められる能力が、運動によって自然と強化されるのです。
3. ストレスマネジメント能力が格段に高まる
経営者は常にプレッシャーの中で仕事をしています。トライアスロンは、このストレスとの付き合い方を根本から変えてくれます。
コルチゾールのコントロール
ストレスを感じると、副腎から「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されます。適度な量なら問題ありませんが、慢性的に高い状態が続くと:
- 免疫力の低下
- 睡眠障害
- 集中力の低下
- うつ症状
- 脳の海馬の委縮
といった悪影響が出ます。
運動によるストレス耐性の向上
有酸素運動には、コルチゾールの「分泌→減少」という正常なサイクルを取り戻す効果があります。運動中は一時的にコルチゾールが増えますが、運動後は正常に減少します。この繰り返しによって、体がストレスに適切に対応できるようになるのです。
実際の研究でも、日常的に有酸素運動をしている人は、ストレスに直面したときのコルチゾール分泌が少ないことが確認されています。
経営者にとっての意味:
重要な意思決定、困難な交渉、予期せぬトラブル——こうした場面でも、トライアスロンで鍛えられたストレス耐性があれば、冷静に対処できるようになります。
4. セルフマネジメント力が劇的に向上する
トライアスロンに本気で取り組むには、トレーニング時間の確保が必須です。これが、経営者のセルフマネジメント能力を飛躍的に高めます。
元ベネッセホールディングスの原田泳幸氏は、こう語っています:
「ただ飲んで、意味のない残業している人は、それをやめるだけ」
トライアスロンのトレーニングを日常に組み込むためには:
- 無駄な飲み会を断る
- ダラダラとした残業をやめる
- 早朝や昼休みを活用する
- スケジュールを分単位で管理する
こうした時間管理術が、自然と身につきます。
経営者にとっての意味:
時間の使い方を洗練させることは、仕事の質を高めることに直結します。トライアスロンへの本気の取り組みが、結果的にビジネスパフォーマンスを最大化するのです。
5. 圧倒的な達成感が自己肯定感と決断力を高める
アイアンマンレースを完走するには、平均10時間以上かかります。この過酷な挑戦を乗り越えた経験は、経営者に計り知れない自信を与えます。
トライアスロンでは、レース中に必ず「もう無理かもしれない」という瞬間が訪れます。腕が回らない、足が動かない、呼吸が苦しい——それでも、ゴールまでやり遂げる。
この経験が、困難な経営判断を下すときの支えになります。「あのレースを完走できた自分なら、この困難も乗り越えられる」という確信が、決断力を後押しするのです。
データで測定できる成長実感
さらに、トライアスロンには「タイム」という明確な指標があります。努力すれば必ずタイムは縮まり、成長が数値で可視化されます。
この「努力は必ず結果につながる」という確信が、ビジネスにおける粘り強さにもつながります。
6. 質の高いビジネスネットワークが構築できる
トライアスロンのレースや練習会では、同じ志を持つ経営者たちとの出会いがあります。
マラソンなどと比べて参加者数が少ないトライアスロンでは、競技者同士の距離が近く、仲間意識が生まれやすいのが特徴です。同じ苦しいレースを戦い抜いたという経験が、強い絆を生み出します。
また、トライアスロンをやっているというだけで話題になり、商談や人脈形成のきっかけになることも少なくありません。
経営者にとっての意味:
ビジネスの場では得られない、本音で語り合える仲間との出会いは、経営者にとって貴重な財産になります。
実際にトライアスロンに挑戦する経営者たち

本田直之氏(レバレッジコンサルティング代表)
本田氏は、トライアスロンの戦略性を高く評価しています。経営と同様に、自分の強みと弱みを理解し、限られたリソースを最適配分する思考が求められる点に魅力を感じているそうです。
原田泳幸氏(元ベネッセホールディングス社長)
原田氏は、トライアスロンへの本気の取り組みが、セルフマネジメント能力を高め、結果的に仕事の効率を劇的に向上させたと語っています。
嵜本晃次氏(サウルスジャパン代表)
マラソン2時間25分43秒の自己ベストを持つ強豪ランナーでもある嵜本氏は、2022年にトライアスロンに本格参戦し、JTUエイジランキング(40-44歳)の年間チャンピオンに輝きました。経営者としての手腕とアスリートとしての実績を両立させています。
後藤玄利氏(ケンコーコム社長)
後藤氏も、トライアスロンの戦略性が経営思考を鍛えると述べています。
トライアスロンと経営の5つの共通点
1. 長期戦略とペース配分
トライアスロン: スイム、バイク、ランそれぞれでエネルギーをどう配分するか 経営: 短期的利益と長期的成長のバランス、事業ポートフォリオの最適化
2. データ分析とPDCA
トライアスロン: 心拍数、パワー、タイムなどのデータを分析し、トレーニング計画を改善 経営: KPI分析、業績データの可視化、PDCAサイクルの実践
3. 柔軟性と適応力
トライアスロン: 天候、波、風、気温などの変化に即座に対応 経営: 市場環境の変化、競合の動き、技術革新への迅速な適応
4. チームワークの重要性
トライアスロン: 個人競技だが、トレーニング仲間やサポートチームが不可欠 経営: トップダウンだけでなく、チーム全体の力を引き出すリーダーシップ
5. 失敗から学ぶ姿勢
トライアスロン: 完走できない日もある。でもその経験から学び、次に活かす 経営: 失敗を恐れず、そこから学んで改善を続ける文化
経営者がトライアスロンを始めるには?

必要な準備
道具・用具(初期費用の目安)
スイム用:
- ウェットスーツ: 3万円〜
- ゴーグル: 3,000円〜
- レースウェア(上下): 1万5,000円〜
バイク用:
- ロードバイク: 10万円〜(本格的なものは30万円以上)
- ヘルメット: 1万円〜
- サイクルウェア: 1万円〜
ラン用:
- ランニングシューズ: 1万円〜
その他:
- 防水仕様の腕時計: 2万円〜
- ゼッケンベルト: 2,000円〜
- 補給食
初期投資は最低でも20〜30万円程度を見込んでおくと良いでしょう。
トレーニング時間の作り方
早朝型トレーニング:
- 朝5:30に起床してトレーニング(サウルスジャパン・嵜本氏の例)
- 出勤前の1時間を活用
昼休み活用型:
- 昼休みに近隣でランニング
- 90分に1回、5〜10分の軽運動で集中力を回復
週末集中型:
- 週末に長時間のトレーニング
- 平日は短時間の維持トレーニング
重要なポイント:
- 完璧を求めず、できる範囲で継続する
- トレーニングを「義務」ではなく「楽しみ」にする
- 過度なトレーニングはコルチゾールの過剰分泌を招くので、1回1時間以内、週2〜3回程度が理想
初心者におすすめの距離
ショート・ディスタンス(スプリント):
- スイム: 750m
- バイク: 20km
- ラン: 5km
- 合計: 25.75km
まずはこの距離から始めて、慣れてきたらオリンピック・ディスタンスに挑戦するのがおすすめです。
おすすめの大会(日本国内)
日本では年間約220大会が開催されています。初心者向けの代表的な大会:
- 各地で開催されるスプリント・ディスタンス大会
- 地域密着型の小規模大会(アットホームな雰囲気)
- 横浜トライアスロン(規模が大きく、サポート体制も充実)
大会選びのポイント:
- 初心者向けのカテゴリーがあるか
- アクセスしやすい場所か
- エントリー費用(1万円〜3万円程度が一般的)
まとめ: トライアスロンで得られる経営者としての成長
トライアスロンが経営者に選ばれる理由を、改めて整理しましょう:
- 戦略的思考力の向上 - 限られたリソースの最適配分を学ぶ
- 実行機能の強化 - 意思決定力、問題解決能力が科学的に向上する
- ストレス耐性の獲得 - コルチゾールのコントロールで冷静な判断が可能に
- セルフマネジメント力 - 時間管理術が自然と身につく
- 自己肯定感と決断力 - 過酷な挑戦を乗り越えた自信が経営判断を支える
- ビジネスネットワーク - 同じ志を持つ仲間との出会い
トライアスロンは、単なる運動ではありません。経営者としての能力を総合的に高める、最高の自己投資なのです。
もし今、ビジネスパフォーマンスを高めたい、新しい挑戦がしたい、ストレスをコントロールしたいと考えているなら、トライアスロンへの挑戦を検討してみてはいかがでしょうか?
最初は短い距離から。大切なのは、完璧を求めず、楽しみながら継続することです。
あなたも、多くの成功した経営者たちと同じように、トライアスロンを通じて新たな自分と出会えるかもしれません。
参考文献・出典
[1] 日経新聞(2012年1月16日付)「トライアスロン競技者の約8%が企業経営者」
[2] 公益社団法人日本トライアスロン連合(2013)「横浜大会参加者調査」
[3] ScienceDirect (2018) "The role of executive function in the self-regulation of endurance performance: A critical review"
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0079612318301171
[4] PMC (2011) "Effects of Physical Activity on Children's Executive Function: Contributions of Experimental Research on Aerobic Exercise"
URL: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3147174/
[5] Frontiers in Psychology (2021) "A Review of Cognitive Changes During Acute Aerobic Exercise"
URL: https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2021.653158/full
[6] Psychonomic Bulletin & Review (2012) "Benefits of regular aerobic exercise for executive functioning in healthy populations"
URL: https://link.springer.com/article/10.3758/s13423-012-0345-4
[7] CTech (2021) "The Skills That Successful CEOs Share with Triathlon Athletes"
URL: https://www.calcalistech.com/ctech/articles/0,7340,L-3736579,00.html
[8] 厚生労働省「ストレスとホルモンの関係」
[9] 日本ストレス学会「アスリートにおけるストレス評価」
